LOGINマリウスは今日もサラと、寝室でワインを交わしていた。
小さなテーブルとワイン、それだけあれば、彼女と過ごすには十分だった。
言葉を交わすことは少なくても、サラに会いたいという想いは消えず、僕たちは何度も同じ時間を繰り返している。
「今日、急に思い立って、ルヒィナさんを訪ねて教会に行って来たよ。」
「えっ、ルヒィナ様のところに?」
「ああ、同じ立場の彼女が気の毒に思ってね。
それにあの離縁を、どんな想いで受け入れたのか知りたかった。僕にも彼女のために何かできることがあるかもしれないと思ったんだ。」
「そうでしたか…。
彼女はどうしていましたか? お詫びのお手紙を書いても、お返事をいただけなくて…。彼女を傷つけてしまったから仕方がないけれど、何度もいうように私は浮気をしていないわ。
それだけはどうしてもお伝えしたかったの。」「立ち会ってくれた神父様が言っていたけれど、彼女はあの日から、とても憔悴し続けているそうだよ。」
「お気の毒に…。」
そう言って、サラは悲しそうに目を伏せる。
それもすべて君のせいだからな。
そう言いたい気持ちを、なんとか押し込めた。今もなお彼女を責めるのならば、僕達はこうしてワインを共に飲むことはできないだろう。
やっとの思いで取り戻しつつある穏やかな二人の関係を、また壊したくはなかった。
「それが不思議なんだが、ルヒィナさんは僕がサラの夫だと知ったとたん、君に謝って泣き崩れたんだ。」
「えっ?
ルヒィナ様が私に謝ったんですか? 腹を立てるのではなく?」「ああ、僕も驚いたよ。
それがとても気がかりで、詳しく話を聞きたかったけれど、彼女は泣くばかりで、立ち会った神父様に、今日はこれ以上話せない状態だから、また日を改めて来て欲しいと言われて、従わざるを得なかった。」「そんなことが?」
「そうなんだ。
どんなに考えても彼女の発言は理解できないし、不思議でならない。 何故彼女がサラに謝るのだろう? 傷つけたのは君の方だよね?」「ええ、そうだと思います。
私は浮気はしていないけれど、結果的に彼女から夫を奪ってしまったので。」「そうだよね。
僕にとって、君は謎だらけだよ。 僕は何を信じたらいいのだろう?」「私…、と言っても無理なんでしょうけれど。」
「君は変わらないね。
僕達は結局、何も解決できていない。 今だに何が本当かわからない。 彼女が君に謝る理由がどうしても気になるから、僕はもう一度、彼女を訪ねようと思うんだ。 僕は君の真実が知りたい。」「ええ、私も納得がいかないんです。
できれば、私も連れて行ってくれませんか? 彼女に直接会って謝りたい。」「わかったよ。
最初は君が一方的に悪いと思っていたから、ルヒィナさんに会わせるのはどうかと思っていた。でも彼女のあの様子を見て、考えが変わった。
君が行くことで、何か新しいことがわかるかもしれない。 僕一人では、きっとまた彼女は泣き続けるばかりで話せないままだろうから。」「わかりました。
一緒に行きましょう。」僕達はあの日以来初めて、二人で外出することになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 馬車の中で、私とマリウス様は向かい合って座っていた。窓の外を流れていく街並みは、あの頃と何も変わっておらず、私が命を失うかと思うほどの絶望の中にいても、人々の営みは絶え間なく続いている。
私の悩みなんて、「ちっぽけなもの。」であると見せつけられているようだわ。
馬車の向かいに座るマリウス様は、変わらず上品な顔立ちで心を見せず、これからルヒィナ様を訪ねる緊張感など、彼の顔からは読み取れない。
私を恨んでいても、まだ私のために時間を作り、今日もルヒィナ様を一緒に訪ねようとしてくれている。
彼はこんな関係になった私にも、優しいし紳士的だ。
私をただ切り離すのではなく、真実を探ろうとしてくれている。 それだけでも、彼は思った以上に誠実だと感じる。私が彼を裏切ったようになっているけれど、再び関わろうとしてくれている彼の姿勢に嫌な点は一つもない。
ただ、私を信じてくれないだけ…。教会に到着すると、マリウス様にエスコートされ、馬車から降り、教会へと足を進める。
すると教会の一番奥の席に座っていたルヒィナ様が、私達の姿を見つけて立ち上がった。
最後に会った時よりも、痩せ細り、儚く見える。心配そうにルヒィナ様を見つめる神父様が、彼女が崩れるのを防ぐために、そっと腕を添えていた。
その様子からも、彼女の心がまだ癒えていないことが伝わって、私の心も苦しい。
修道服に身を包んだ彼女は、涙を浮かべた目で私を見つめている。
「ごめんなさい、サラ様…。」
静かに口を開いた彼女は、私の元までかけよると足元に跪き、何度も頭を下げて詫びの言葉を繰り返す。
「顔を上げて、ルヒィナ様。
悪いのは私の方でしょう?」「いいえ、違います、私なんです。
すべて私が…。」そう言って、自分を責め続けながら涙を流し続ける彼女に、私はそっと声をかける。
「落ち着いて、お話を聞かせて。」
「はい、すべてをお話します。」
そうして、ルヒィナ様は静かに語り出すのだった。
「サラ、すまなかった。心から謝りたいんだ。」「えっ…。」謝りの言葉を探していた私に、先に発したのはマリウス様だった。とても真剣な表情で、私を真っ直ぐ見つめている。「今更、許してもらえるかわからないけれど、サラを信じなかったこと、悔やんでいるよ。あれほど、信じて欲しいって言われていたのに、申し訳なかった…。」「そんな、仕方がなかったのよ。誰から見ても、信じてしまうような証拠があったんですもの。あの状況では、私だって信じてしまうわ。でも私は、嘘は絶対につかないと約束する。だからこれからは、私の言葉をそのまま受け止めてほしいの。」「わかった、本当にすまない。まさか、あそこまで巧妙に嘘をでっち上げる人間がいるなんて、思わなくて。今でも信じられないよ。」「そうね。私もあの人がずっと怖かった。最初に嘘をつかれた時から、もしかしたら無理矢理連れて行かれるかもしれないと、心のどこかで怯えていて、いくらみんなを巻き込みたくないと思っても、自分の運命から逃げ出したいと願っていたわ。あれほど、執着されてしまう何かがあったと、今でも思えないし。マリウス様こそ、約束を破って、あの人のところへ向かった私を許せるの?」「もちろんだよ。僕は君の身に何があってたとしても、君さえ許してくれるのならば、これからもずっとそばにいたいと思っていた。僕を許してくれる?君の本当の気持ちを聞かせて。」「私は…、あなたを許しているわ。そして私も、マリウス様に今まで起きたことのすべてを許されたい。私はいつだってあなたが好きだし、あの人のところにいる時もずっとここに戻りたかった。あなたのそばに。どんなに私を思ってくれている人がいてもダメなの。あなたじゃなければ。」「もちろん、許すよ。サラは何も悪くない。悪かったのは、ずっと僕の方さ。」「でも、マリウス様は私を疑っていた時も、ずっと私を離さないでくれた。それがとても嬉しかった。悩んだりせずに、私を追い出した方がよっぽど簡単だったはずなのに。むしろあの状況なら、ほとんどの男性が私を手放していたと思うの。でも、マリウス様は最初のうちは拒絶したけれど、少しずつ私と話そうとしてくれたし、そばにいてくれた。そのことは感謝しているの、ありがとう。」「僕は自分でもおかしなくらいどんなことがあっても、君を嫌い
「せっかくのお祝いの晩餐だったのに、サラはほとんど食べなかったね。この後のことに緊張しているのかな、可愛いね。」夕食が終わると、デニス様にエスコートされて、寝室へと連れて行かれた。恐れていたこの時が、いよいよ目の前に迫ってくる。途中からワインを飲むことを止められて、朦朧と出来ずにこの時を迎えてしまった。何かの理由で今意識を失えたなら、良かったのに。でも、引き伸ばしたところで、デニス様から逃げることなどできないのだ。心の奥にいるもう一人の自分が、抗っても無駄だと、告げている。寝室に入ると、そこにはたくさんの贈り物とおぼしき箱が山のように積み重なっている一画があった。それを見ながらデニス様が自嘲気味に笑う。「これは君への贈り物だよ。明日ゆっくり見るといい。何せずっと僕を待たせるから、どんどん増えてしまったのさ。この他にもクローゼットに入っているドレスも全部、僕が選んだんだ。楽しみにしていて。でも、今夜は僕が今日のために準備した特別な夜着を着てもらうよ。さあ、先に湯あみをしておいで。」ここまで来てしまった以上、もうどこへも逃げ場はない。みんなを巻き込みたくないから、ちゃんと覚悟したじゃない。それでも、体の震えは止まらなくて、ふらふらと浴室へと向かう。本当に嫌、もう何も考えたくない…。扉を閉めたその瞬間、膝から崩れ落ちた。浴室には、デニス様が選んだと思われる白くて薄いドレスのような夜着が置かれている。これも彼の「贈り物」か。その夜着を見つめながら、知らずに涙が溢れる。私はどうしてここにいるの?どうしたら、この醜悪な現実から逃げ出せるの?もう、わからない。さよなら、マリウス様…。そのときだった。寝室の方から響く怒鳴り声と叫び声が、壁越しにかすかに震えて伝わる。「隊長、ここにいました!」「よし、どんな姿でもいいから容赦するな。すぐに捕えろ。」「はっ。」 「離せ、サラー!サラー!」金属がぶつかる鋭い音、物が叩きつけられる音が断続的に響き、床や天井を伝って微かに振動が足先まで届く。「ぐわっ、やめてくれー。サラー。」デニス様が捕らわれて、どこかに連れて行かれるような、叫び声が遠ざかる。仮面をつけた夜会を利用してまで、完全に消息を絶ってここに来たから、私の助けが現れたとは思えない。だったら、この騒ぎ
「来てくれたのね。これからあなたの邸に行こうと思っていたんだけれど、夫が心配してなかなか許してくれなかったの。でも、急いでマリウスに伝えなければならないことがあるのよ。」「サラは今どこにいますか?姉さんは何を知っていますか?」「焦らないで、順に説明するから。」「わかりました。」僕はギルフォード公爵邸に到着するなり、姉との面会を果たした。「実はね、私が馬車に乗っている時に、ホルダー侯爵に攫われたの。相手は、数人いた警護の者達では太刀打ちできないほどの人数だったわ。」「えっ、姉さんが?怪我は?」「大丈夫、手荒な真似はされなかったわ。でも、後から知ったのだけど、私の解放の条件はサラを連れて来ることだったようで、一緒に攫われた私の侍女がサラを迎えに行ったの。」彼女は淡々と、しかし重い口調で語り続けた。「侍女はあなたの邸を訪れ、サラにそのことを伝えたそうよ。彼女が代わりに捕まることになってしまうけれど、私の侍女は私を優先して、サラに頼み込んだ。そこは、責めないでほしいわ。」「わかっている。」「だからサラは、自分が捕まるとわかっていて、私を解放しに来てくれたの。それだけでなく、私の身代わりに連れて行くことに赦しを乞う侍女に、このことをあなたに伝えた後は、忘れていいと話したそうよ。そして、私を巻き込んだことを詫びていたそうなの。」僕は言葉を失った。「サラは本当に優しい子ね。こうなってしまったのは、彼女のせいじゃないのに。どうしても、人のことを想ってしまうのね。」姉の瞳に、うっすらと涙が滲んでいる。「でも、ホルダー侯爵は本当に恐ろしい男よ。捕らえられていた間、少しだけ話す機会があったけれど、サラへの執着は常軌を逸していた。」彼女は深く息を吸い、吐き出すように続けた。「話し合いで解決できないかと説得しようと試みたけれど、無駄だった。彼にはサラ以外の存在なんてどうでもいいの。すべてを失っても構わないという覚悟を持っていて、捕まることすら恐れていないのよ。だから、彼を誰も止められない。そして、非常に用意周到で執拗。あんな男がこの世に存在するなんて思いたくないわ。サラが標的になってしまったことが、本当に不憫でならないの。」僕は、堪えきれずに拳を強く握った。「サラは今どこにいるか、わかりますか?」「大丈夫よ。ホ
サラがホルダー侯爵に連れられて来たのは、彼が元々住んでいた邸とは違う別の邸だった。「さあ、ここが僕達の新しい新居だよ。これからはここで、二人で生きていこうな。」邸の中は何処もかしこもシャンデリアに照らされて、ホルダー侯爵が以前住んでいた邸よりも大きく、豪奢な造りだった。「ここはね、僕達のためにあの当時から構想を練っていたんだ。気に入ってくれるかい?」「あの当時からって?」「もちろん、僕達が出会ったあの頃だよ。」「えっ、その頃から住む邸を考えていたんですか?」「そうだよ。婚約したらすぐ一緒に住もうと考えていたからね。」「そんなつもりは…私にはなくて。だって、あの頃まだお付き合いさえしていなかったですよね?」「そう思っていたんだ?僕はすでに恋人でいたつもりだったんだけどな。だから、ファーバー子爵に会うのを禁止された時は、正直、苛立ちが抑えられなかったよ。それで、君が僕のもとに来ざるを得なくするために、子爵に圧力をかけたんだ。けれど、まさかあの時、ファーバー子爵が頼ったのがハンプトン侯爵とはね。あの二家をまとめて潰してやろうと思ったけど、ギルフォード公爵が睨みを利かせていてさ。だから、渋々一度は、引き下がるしかなかった。迎えに行くのが遅くなって、悪かったね。でも、安心して。今こうして一緒になれたんだから、もう大丈夫さ。でも、もしこの先たった一歩でもこの邸から逃げ出そうとしたら、僕は今度こそ何をするかわからない。そのことだけは、忘れないで。」彼は間違っている。当時、ホルダー侯爵との縁を断とうとしたのは、お父様じゃない、私自身だ。彼とはやっていけないと感じたから。だから、お父様に懇願したのだ。「彼から距離を置きたい。」と。ホルダー侯爵との縁を切った頃、何故か突然ファーバー家の事業が傾き、家は破産寸前にまで追い込まれた。まさか、それも彼の仕業だったなんて。私のせいで?私が彼を拒んだから?お父様もお母様も、そしてファーバー子爵家に関わるすべての者たちも、私のせいで明日への生活がままならない恐怖に晒されたというの?なんて酷い。あまりにも残酷すぎる。あの当時から、お父様は原因がホルダー侯爵だと知っていたの?すべて私のせいだということを。それなのに、お父様は私を責めたりはしなかった。それは、告げないことで
遡ること数刻前、「サラ様、ローサ様の侍女がお話があると、いらしております。」邸では侍女達が揃い出し、ローサ様の侍女達は、つい先日、彼女の邸に戻ったばかりだった。「あら、何かあったのかしら?応接室にお通しして。」「ですが、旦那様から邸に誰も入れてはいけないときつく申しつかっておりまして。」「でも、ローサ様の侍女達は特別よ。とてもお世話になったの。」「かしこまりました。」マリウス様は今、ルヒィナ様とご両親を安全なところに避難させるために、邸を離れたままだ。けれど私は、この邸にいる限り私兵に守られているから、安全なはずだ。軽く身なりを整え、ローサ様の侍女が待つ応接室に向かうと、部屋の中には固い表情のソニアさんが、指先で袖口をせわしなくいじり続けながら私を待っていた。「先日は、大変お世話になったわね。結局、マリウス様とルフィナ様を訪問することで、彼女と直接話せたの。誤解が解けて、また仲良くできそうよ。落ち着いたら、ソニアさんにもお礼を考えているの。ぜひ、受け取ってね。」「はい、…。」何故かソニアさんは、気もそぞろといったようすで言葉に詰まる。「どうしたの?落ち着かないようすね。何かあったの?」「…それが、ホルダー侯爵様が、ローサ様を拘束しておりまして、サラ様を私に連れて来るようにと命じました。」「えっ、何ですって?ローサ様が?」「はい。サラ様、ローサ様を解放するために一緒に来ていただけますか?もし、他の者に口外したら、ローサ様の命はないと言われています。誰にも告げずに、ホルダー侯爵様の指示に従ってくれますか?…お願いです、サラ様、私はローサ様を守りたいんです。」「もちろんよ。それは私のせいでもあるもの。ローサ様は巻き込まれただけ。すぐに参りましょう。」「ありがとうございます。サラ様が身代わりになるとわかっていながら、こんなことをお願いしてすみません。」「いいのよ。ローサ様が解放されたら、マリウス様に伝えて。そしたら、あなたはこのことを忘れて。何も悔やむことはないわ。」「…すみません。」「さあ、行きましょう。」結局、私がホルダー侯爵の元へ行かないと、いつまでも終わらないのね。ただ巻き込まれただけの、新たなる犠牲者が生まれてしまう。私のせいで、もう誰も傷ついてほしくない…。私はソニアさん
マリウスはルヒィナさんとカーソン男爵夫妻を、信頼のおける知人の別邸まで送り届けた後、王宮に赴き王にすべての経緯を報告し、夜更けをとうに過ぎた頃、邸に戻って来た。王は不貞はホルダー侯爵の虚偽だと理解してくれたが、実際のところ、僕が「不利益を被った。」と訴えても、「たかだか金銭の支払いを請求できるだけで、たいして罪には問われない。」と判断された。僕の名誉が少し傷ついただけで、僕達がそのことで離縁したわけではないからだ。そう言われれば、腑に落ちないが仕方ない。だが、ルヒィナさんは脅迫されて、ホルダー侯爵と離縁しているし、カーソン男爵夫妻もこの先彼に狙われる可能性がある。彼女らには僕を通して保護が適用され、しばらく近衛兵が避難先の警護に当たってくれることになった。しかし、現段階ではカーソン男爵家へ本当に危害を加えるか分からず、たいした罪に問えない。離縁や脅迫の罪では、金銭を要求できるが、牢に捕えることまではできない。だから、とりあえずは対策をして様子を見るしかできることは無かった。仕方がないのでそちらは一旦置いておいて、僕は何としてでも先にサラとの仲を修復したい。彼女が不貞をしていなかったことは、最大の喜びだけど、それと同時に僕がサラを信じなかった罪が生じている。僕は間違った判断をし、どうすれば彼女が許してくれるかまだわからない。けれども、こうなってしまった以上、誠意をもって謝るしかないこともわかっている。無実のサラを疑い、長い間責めていたのは、すべて僕が悪い。彼女があんなに「信じてほしい」と訴えたのに、証拠があるからと彼女に寄り添えなかった罪は大きい。どんなに証拠があったとしても、彼女を信じきる。その覚悟が僕には足りなかった。自分の過ちの重さに、打ちのめされる。邸に戻ると、ただならぬ気配のチャベストが、僕の帰りを待っていた。「マリウス様、おかえりなさいませ。早速ですが、重要なお知らせがあります。人に聞かれたくないので、ここでは話せません。二人きりになれるところに参りましょう。」「わかった。応接室で聞こう。」すぐに二人は足早に移動し、部屋に着くなりチャベストは話し始める。「早速ですが、ローサ様の侍女がサラ様を迎えに来まして、すぐに二人はギルフォード公爵邸に向かうと話し、馬車で出て行かれました。お引き止めしましたが、どうし